はじまりの日 -Forever Young-

 令和5年がスタートしましたね。皆さんお正月はいかがでしたでしょうか。初詣には行きましたか?神様に何をお願いしたのでしょう。おみくじは引きましたか?私も元旦の朝一番に地元の神社に参拝して、氏神様に家族の健康と安泰を、そして世界平和を祈願しました。年をまたいでの初詣は、過ぎ去った1年を一度リセットして、新たにスタートをするはじまりの日として、改めて「この一年頑張っていきます」と神様とお約束を交わす事の様に思えます。そう考えると初詣という行事は、つくづく日本らしい習慣だと感じてしまいますよね。

 内閣総理大臣としての初詣は、例年伊勢神宮にお参りをする事になっている様ですね。岸田総理が、天照大御神様に参拝をした後に行った年頭会見が、今世間をざわつかせています。皆さん既にご存じの通り、岸田さんは鼻を膨らませて「これ以上放置できない待ったなしの課題」として「異次元の少子化対策に挑戦する」と力強く宣言していましたよね。そして、「若い世代から“ようやく政府が本気になった”と思っていただける構造を実現すべく、大胆に検討を進めてもらいます」と語っていました。私は最初にこのニュースを見たときに、「おいおい、待ったなしの課題を放置するなよ!」と思って、「お前ら、今まで真面目に取り組んでいなかったのかよ!おまけに今から検討とは何事だよ!」とTVに向かって突っ込みを入れてしまいました。私も新年早々から、こんな言葉尻を捕まえて因縁をつけてくる”ちんぴら”の様な真似はしたくはないのですが、我が日本国の総理大臣が、年始最初の大切な会見で、世間からの批判を集める事必至であるこんな言葉遣いをする思慮の足りない人物だと思うと、なんだか情けなくなってしまったのです。

 少子化が昨日今日始まった問題ではない事は、皆さんご承知の通りです。少子化の進展は、国力の低下や社会保障への甚大な影響をもたらす事が予想されていて、政府も無為無策で今日に至っている訳ではありません。1994年には、女性の社会進出や少子化の対策として、“エンゼルプラン”が策定されて、その後2000年には“少子化対策推進基本方針”が関係省庁の閣僚会議で決定されました。2013年、今から10年前には、時の政権が、「我が国は、社会経済の根幹を揺るがしかねない少子化危機とも言うべき状況に直面している」という声明を出して、“少子化危機突破の為の緊急対策”を発表しました。そこで3本の矢として発表された対策は、子育て支援、働き方改革、結婚・妊娠・出産支援、の3点でした。この3つの施策は今回の岸田さんの「異次元少子化対策」の基本方針と全く同じで、ここ10年間の少子化対策のマンネリを如実に表していますよね。私には岸田さんの会見が、今まで行ってきた施策に対する検証がなくて、新しいビジョンを何一つ示す事がなかった事にがっかりしてしまいました。そして、まるで思いつきの様な「異次元の云々」というセンセーショナルな言葉の裏に、人々の歓心を引こうとしている下心が透けて見えて、なんだかげんなりしてしまいました。

 少子化の理由については、様々な要因が複雑に絡み合っていて、一筋縄ではいかない様です。一方で、実際に起きている事は単純で、「未婚の男女が多い」「結婚した夫婦が子供をつくらない、或いは2人目3人目の子供をつくろうとしない」「子供が欲しくても出来ない」、大雑把にはこの3点に集約されると思います。不妊については、不妊治療の保険適応である程度の道筋はつきましたが、圧倒的にその人数は少ないですよね。結婚した夫婦が子供を作らないという点については、経済的な不安や働き方、子育て、将来への不安が大きな原因であると語られていますが、それ程単純なものではなくて、社会の構造や人々のマインドなど様々な要因が複雑に関連していると言われています。なので、今まで行っている施策を拡大すればある程度の効果はありそうですが、それ程単純なものではなさそうですよね。未婚については大問題で、びっくりする様な数字が提示されています。生涯未婚率、つまり50歳時点で一度も結構していなかった男女が、2020年のデータで、女性16.4%に対して男性はなんと25.7%なのです。理由は様々な調査の結果、男女とも「適当な相手と巡り合えない」という理由が最も多くを占めていて、その他には、「自由な暮らしを楽しみたい」「経済的な不安」などが提示されていますが、未婚についても、様々な要因が絡み合っていて、正解はなさそうですね。私は生涯未婚率の数字を見て、新入社員の時の上司の事を思い出しました。その人は、長身かつスマートで、田村正和をちょっと不細工にした様な苦み走ったなかなかの男前でした。高級スーツをパリッと着こなしておまけに仕事も出来るという、まさに独身貴族といった人でした。ところが、やる事為す事細かくてうるさい人物で、それは仕事だけに留まらず、食事のマナーから鉛筆の持ち方に至るまで一事が万事で、一緒にいたら息が詰まる様な人物でした。私は、忘年会の時にカニすきを食べていた時に鍋に野菜を入れようとして、「だしが濁って不味くなる!」と言われて怒られた事を思い出してしまいました。一事が万時この調子で、「これじゃあ嫁の来手はいないよな」とみんなで陰口をたたいていたものでした。この人は適当な相手に巡り合えないというよりは、異常に理想が高いという類の男性だと思います。恐らくこういった将来一体どうなるのだろうと思われる男性も、世の中には結構沢山いるのでしょうね。

 国連が昨年発表した2020年の世界の合計特殊出生率(1人の出産可能年齢の女性が生涯で産む子供の数を推計した値)の上位は、アフリカの国々が占めています。1位二ジュール6.8人、2位ソマリア6.0人、3位コンゴ共和国5.8人などで、上位にはアフリカの国々、それもいわゆる最貧国と呼ばれる国々がずらりと揃っています。アジアでは、上位は52位のパキスタン3.5人を筆頭に、76位フィリピン2.5人や96位インド2.2人、105位ベトナム2.0人など、多くの国は2人を超えていますが、一方で、中国が1.7人、日本は1.3人、韓国はなんと0.8人(調査国最下位)で、東アジアの国々が少子化で苦しんでいる事がわかります。ヨーロッパ・北米も軒並み2人以下で、最上位は112位フランスの1.8人となっています。アメリカ・イギリスは1.6人、ドイツは1.5人でいずれの国も50歩100歩です。意外にも、高福祉国家として知られている北欧3国も低調で、スウェーデン1.7人、ノルウェー1.5人、フィンランド1.4人となっていて、少子化は頭痛の種の様です。

 少子化対策が成功した国としては、フランスが優等生として挙げられています。各種媒体では例外無く、フランスの社会制度が子供を多く産めば有利になる制度になっている事を紹介しています。税制の面では、子供を多く産む程大幅な所得税減税が得られる「N分N乗方式」の導入が有名ですね。その他では、第3子からは、家族補足手当が受給出来る事と、年金が10%加算されるという制度になっている様です。また子育て支援も充実していて、様々なパッケージを取り揃えています。教育についても、高校までの学費は原則無料、公立大学の学費もほぼ無料である様ですね。多くの識者が「フランスを見習え!」と拳を振り上げているのですが、私はちょっと疑問に感じています。確かにフランスは上記の様な努力で徐々に少子化は解消しつつあるのですが、日本とは社会環境が違いすぎるのです。フランス社会は自由と多様性を受け入れていて、移民の受け入れに寛容で、ユニオンリーブルという結婚にとらわれない男女の在り方が一般的になっています。同性婚も合法です。そして、婚外子についても社会的に受け入れていて、嫡出子と同様の社会的な扱いを受けています。それどころか、非婚女性に対する人工授精や体外受精までもが法的に認められていて、非婚女性やレズビアンカップルに対して、見知らぬ提供者からの精子を用いた人工受精まで公的保険で行われています。ちなみに妊娠出産に関わる費用は、全て公的保険の適応となっています。フランスは、少子化対策という狭い概念ではなく、家族の在り方や社会の中で男女がどの様に生きていくかというトータルのパッケージを行なった結果として出生数が徐々に伸びて来たのでしょうね。

 日本の少子化の進展は、政府が予算を手当していないからだという事がメディアや識者がしきりに煽っています。その裏付けとして、家族関係政府支出のGDP比が専ら使われています。2017年のデータでは、日本1.59に対してフランスは2.88で、確かに日本はフランスの半分程度です。北欧3国は、スウェーデン3.40、ノルウェー3.24、フィンランド2.87となっていて、支出は流石に高福祉国家の面目躍如でフランスより予算措置は潤沢ですが、出生率の伸びはみられていません。そしてアメリカは、0.63で日本の半分以下にもかかわらず、日本はおろかノルウェー、フィンランドよりも出生率は高く、スウェーデンとほぼ同程度になっています。この事実は、もし「異次元の少子化対策」が、今まで行ってきた政策の焼き直しで、そこに異次元のお金をつぎ込む施策であるならば、数値の若干の改善はみられるかもしれれないけれど、“焼け石に水”で終わってしまう可能性が高いという事を暗示しています。それは日本より多くの政府支出を行っている国が、一部の例外を除いてことごとく特殊出生率2人に達していない事が裏付けています。岸田さんも当然それは理解した上でこの様な発言をしているのでしょうね。そして、もしそれが分からず単なる思い付きでこれほど大切な事を発表したのであれば、余程お目出たい人物だと言わざるを得ませんよね。日本の出生率は、恐らく余程大きな改革を行わない限り右肩上がりには転じない事でしょう。しかし日本では、移民受け入れの緩和やユニオンリーブル、婚外子に関しては、保守の石頭達が絶対に許さないでしょうし、匿名提供者からの精子を用いた人工授精などは、倫理的に疑問符がつくので導入は出来ないと思います。6月までに少子化大臣を中心にタスクフォースを作って検討をしていく様ですが、コペルニクス的転回の発想で余程大胆な事をしない限り、今の流れを止めることは出来ない様な気がします。

 岸田さんが「異次元の云々」と発言するや否や、脊椎反射で東京都知事が「所得制限なしに東京都の子供全員に1人5000円を給付する」と盛大に花火を打ち上げました。百合子知事は、政治的な事には本当に嗅覚が鋭くて、早速政府のマウントを取りに来ましたね。百合子おば様は調子に乗って、立て続けに保育所の無償化や都主催の独身男女のマッチング、希望者の卵子凍結保存までぶち上げています。しかし残念ですが、大きな効果は望めない様な気がします。何せ東京都の特殊出生率は1.0人で、ランキングぶっちぎりの最下位で、群を抜いて出生率は低いのです。東京都の住宅価格や物価を考えてみればこれは当然の帰結であって、今百合子おばちゃんがやっている事は、ご自身のポジションを固める事には役に立つと思いますが、少子化対策にはほとんど寄与しないと思います。おばはんには、ご自分が以前盛んに発言していた“ワイズ・スペンディング”というお言葉を是非とも思い出して欲しいものですね。私はむしろ、子育て適齢期世代の男女が東京から地方に脱出する様な施策のほうが理にかなっていると思っています。パソナが2年前に本社機能の半分を淡路島に移転した様に、大手企業はどんどん本社を地方に移動すればいいと思うのです。東京で暮らす子育て世代は、何千万ものローンで購入した3LDKのマンションに住んで、毎朝子供を保育園に預けた後で、ぎゅうぎゅう詰めでとても人間の乗り物とは思えない満員電車で通勤をして、仕事が終わってヘトヘトで子供を迎えに行って帰宅をして、くそ高い食材で作った夕食を食べて泥の様に寝るという、まるで人間扱いされていない様な日々を送っています。毎日がこんな生活では、子供を育てるモチベーションは否応なしに低くなると思いますよね。それよりも地方の豊かな自然の中で、広々とした住居に住んで、経済的にも精神的にも余裕がある夫婦生活が送れるならば、他人がとやかく言わなくても自然に子宝に恵まれると思いますよね。まず手始めに国会や官庁、いっそ首都機能まること地方に移転すればいかがでしょうか?福島県がいいですね。郡山近郊であれば、東京まで新幹線で1時間20分程度です。環境は抜群にいい所ですし、震災復興にもなるし、岸田さんの”お約束”である「デジタル田園都市構想」にもおあつらえ向きで、願ったりかなったりで万事めでたしめでたしだと思いますよ。

 少子化の流れを止める事は、恐ろしく困難なタスクで、恐らく無理筋だと思います。出生率低下の流れは既に20年以上経過していて、今後は出産可能な女性の数自体が、年々少なくなっていきます。加えて、50歳にもなって「適当な相手がみつからない」だの「自由な生活を謳歌したい」なんて事を言っている甘ったれた男や、「理想が異常な程高い」以前の私の上司の様な自分勝手な男や、「金がないから結婚出来ない」などと情けない事を言っている根性なしの男が3割弱もいる国で、いくら政府や自治体が結婚の旗を振っても虚しい努力だと思うのです。私はすでにPlayerではなくAudienceになってしまっています。外野席から勝手な事を野次っているだけなので、どうか怒らないでくださいね。私は「異次元の云々」が予算措置の話であるのなら、子供を作ってきちんと育てていこうというカップルに対して適切に使って欲しいと思っています。そして高校まで、そして出来れば国公立大学については授業料を無償化にして、全ての子供たちに教育のチャンスを与えて欲しいと私は思っています。今現在を生きている子供たちの為に、とりわけ、いじめや虐待で悩んでいる子供達やヤングケアラーの子供達、これからの人生に希望が持てない子供達にこそ”ワイズ・スペンディング”をしてくれと、私は心から願っているのです。少子化の結果これから起きるであろう日本の国力の低下や社会保障への甚大な影響については、否応なしに大きな変革をしていかなければならなくなる事でしょう。岸田総理から命じられて、これから「異次元の対策」を検討する方々には大変ご苦労な事ですが、キシダ殿のあんぽんたんな基本方針などは無視をして、是非とも広い視野を持って人々のマインドが劇的に変わる様な改革を考えて欲しいですね。新年早々からこんな難しい事を考えていたら、お屠蘇の飲みすぎで隙間があいてしまった私の脳みその許容容量を超えてしまって、何だか支離滅裂になってしまいました。私は、すでに現役引退して外野フェンスの外で球拾いをしている立場なのですが、若い人達には、豊かで実りある有意義な人生を送って欲しいと切実に願っているのです。

Forever Young:今を生きている子供達、そしてこれから生まれてくる子供達に、常に変わらぬ神のご加護がありますように・・・。

Forever YoungはBob Dylanが1974年に発表した14枚目のアルバム“Planet Waves”の6曲目(slow version)、7曲目(rock version)に収録された曲です。邦題は“いつまでも若く”となっています。ディランは「この曲は、息子(ジェイコブ・ディラン)の事を考えていたら、頭の中で自然にうかんできたんだ」なんて事を語っています。そんな背景で生まれたこの曲には、一見気難しそうな彼の内面の優しさが満ち溢れています。そして、我が子が誰からも愛されて、正しくまっすぐに育っていって欲しいという彼の願いが、まるで子守歌の様に優しく美しいメロディーで歌われています。私にとってボブ・ディランは、最近まであまりなじみがないアーティストでした。中学生の時、友人の兄貴(コテコテの左翼)がディランの大ファンで、私達にしきりと勧めてくれたのですが、鼻たれ小僧だった当時の私達にはディラン先生の良さなど皆目見当がつかず、「こんな辛気臭い曲で、調子っぱずれで下手糞のどこがいいんだ」などと糞生意気な事を語り合っていたのでした。何もわかっていない癖にいきがって、偉そうな事をほざいていたクソガキだったのですね。私がボブ・ディランの偉大さを知ったのは、恥ずかしながら彼がノーベル文学賞を受賞した後でした。改めて彼の楽曲を聞いてみると、何故ボブ・ディランが、多くのアーティストや作家・漫画家・演出家などクリエイティブな人達から熱烈に支持されているのかが朧げながらに分かった様な気がしました。そして、数多い彼の作品の中でも、私はこの“Forever Young”がピカ一に好きですね。この曲をモチーフにした絵本も発表されています。ポール・ロジャースさん作画による「はじまりの日」という作品で、とても素敵な絵本です。子供さんだけでなく、お父さんやお母さんに、そしてお孫さんがおられるおじいちゃんやおばあちゃんにも是非手に取ってページをめくってみて欲しいですね。そしてなによりこれから新しい命を授かるであろう未来のお父さん、お母さんにも、是非とも紹介したい絵本です。暖かい気持ちになれる事請け合いで、そして我が子に対する愛おしさや我が子がこれから歩んでいく人生に精いっぱいの応援をしてあげたいという気持ちが自然に湧き上がってくる、そんな絵本だと思うのです。

このような駄文を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

皆様にとって明日が今日より良い日となりますように。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です