ゆく年くる年 -Stand By Me-
年の瀬も押し迫ってまいりました。皆さん、本年はどの様な年でしたか?何かいい事がありましたか?世間を見回してみると、令和4年、2022年は大変な年でしたよね。コロナウイルスによって傷んだ経済は、ウクライナの戦争で拍車がかかって、エネルギー不足、円安、物価高という三重苦に私達庶民は今も苦しめられています。平和だと思い込んでいたこの日本の姿を根底から揺るがすような事件も起きてしまいましたよね。安倍晋三元総理大臣がテロの犠牲になってしまったのは、衆議院選挙の真只中、選挙の応援演説中という公衆の面前での出来事でした。頭がおかしい為政者が治めている隣国からは、ミサイルがバンバン発射されて、我が国の庭先の海域に落下しています。大木こだま師匠じゃありませんが、本当に「往生しまっせ」ですよね。ところで年の瀬とよく言いますが、どの様な意味なのでしょうか?もちろん年末の事を指している言葉なのですが、辞書で調べると、“今年をうまく越せるかどうかが問題である精算期としての年末”と書いています。つまり、代金後払いの清算は盆・暮れに行う事になっていて、代金後払い、即ち掛け売りの支払いをちゃんとして、無事に年を越せるかどうかが問題となる年末の事が語源だそうです。
この年末の慌ただしい時に岸田総理が増税の話を持ち出してきたのは、いかにも唐突な話でした。何の為の増税かと言うと、年末までに纏められる事になっている税制大綱(23年度の税制をどうするのかという方針みたいなものらしいです)に向けて、防衛費増額の為の財源にするという話で、その話を、いきなり岸田さんが党の税制調査会にブッ込んで来たのだそうです。今まで増税の話などおくびにも出さず、その話については煙に巻いて、ひたすらクリンチとダッキングで避けて来たのに、この年末になってシレーっと増税なんて話を持ち出して来たので、世間は騒然となりましたよね。岸田さんにとっての年の瀬、つまり今年中に払っておかなければならない借用金は、何を隠そう増税だったのですね。もともと日本の防衛予算については、あまりにも少なすぎるという事を保守の人達は長年訴えていて、防衛予算の増額は保守層の積年の悲願でした。そしてその増額については、6月にバイデン爺さんが来日した際の日米首脳会談で岸田さんが「GNP比2%を目途に増額しまっせ」と調子よく約束してしまって、既成事実となっていました。要はそのための財源をどうするかという話なのですが、岸田さんは何を聞かれても、「防衛費GNP比2%に向けて、内容、予算、財源はセットで考えなければならない」と答えになっていない事を九官鳥のようにひたすら繰り返すだけに終始していました。マスメディアや評論家の人達は、財源については税外収入の転用や防衛国債など様々な憶測を報じていましたが、政権からは決して増税でという話は出てきませんでした。それどころか11月末には、首相側近の女好き副長官(特には秘す)から、「総理も自分も今まで増税なんて事は一言も言った事はない」なんてびっくりする様な発言まで飛び出していました。そんな訳で、この年末に騙し討ちの様に増税の話をぶっこんで、おまけに復興目的税からの転用なんていうやり方は、いかにも姑息で拙速、そして体裁ばかりを考えていて、あまり物事を深く考えていない(様にみえる)この政権らしいと言えば、さもありなんといったところですよね。
岸田総理にとってもう一つの“年の瀬の借用書”は、安保3文書の改訂でした。安保3文書とはなんぞや?と申しますと、外交・防衛の基本方針をまとめた「国家安全保障戦略」、日本の防衛力をどのようにするのかという指針である「国家防衛戦略」、防衛力を具体的にどのように整備していくのか、金額はどのくらい必要になるのかについて纏めた「防衛力整備計画」、以上3点の公文書を指しています。近年日本の周辺からは、毎日の様にきな臭い話が聞こえて来ていますよね。日本の隣国は、品性下劣で冷酷な為政者が収めている物騒な国ばかりなので、長年改定されてこなかったこれら文書の改訂は、社会からの喫緊の要請でした。日本は長年防衛費のGNP1%枠を堅持してきました。この1%枠は、1976年、三木内閣の時に閣議決定されたもので、我が国は、何の根拠もないこんな枠組みを、金貨玉条のように長年愚直に守り続けて来ていたのでした。「憲法9条があれば、日本は大丈夫」なんて事を言っている気が狂った・・、もとい、独特な考え方の人達はさておき、大方の日本人は、「日本に本気で攻め込んでくる国なんてなかんべさ。あったとしても、いざとなったらアメリカが日本を守ってくれるべ」という漠然とした期待を持っていたのではないでしょうか。しかしながら、同盟国の立場としては、日本の防衛にかかる費用がGDP1%の枠内であれば不足感は否めませんよね。私達国民としても、それで本当に大丈夫なのか?と内心思っていながら、「まあ何とかなるばい」と長年やり過ごしてきたというのが本当の所だと思いますね。EUの同盟国内では、各国の国防費はGDP比2%と決められているのだそうです。しかしドイツはなんだかんだと理由をつけて、長年GDP比1%強の国防費でやり過ごしていました。そのドイツですら今回のロシアの暴挙を受けて国防費増額へと舵をきりました。ロシアがウクライナに攻め込んだのを目にして、そしてそのロシアに加えて、似たようなマインドの大国とキ印の太っちょの国を隣に持つ我が国としても、防衛費GNP比2%という国際公約は妥当な線だと思いますよね。
今回の安保3文書では、抑止力としての反撃能力を明記した事がトピックとされています。そして、敵がミサイルを発射する準備を始めた時点で敵の発射基地を攻撃する能力(スタンド・オフ能力と言うそうな)として、アメリカのトマホークミサイルの購入と日本で開発中の超高速ミサイルの開発を加速させるのだそうです。そしてこうした事を含む防衛費用として、5年間で43兆円という金額が明記されました。今回の内容については、いわゆる保守と呼ばれる右寄りの人達は大喜びで、「我が国安全保障戦略の歴史的転換だ」なんて高い評価をしている様です。私は、安全保障などという難しい事を考えると頭が痛くなってしまう質なので、今回の改訂の是非については判断できませんが、若干不満に感じる点は持っています。今回の改訂では、どの様にして我が国を護っていくのかという事については画期的な改訂であったのかもしれませんが、誰が我が国の安全保障を担っているのかという点については不十分だと思っているのです。我が国の国防の最前線で頑張ってくれているのは、言うまでもなく自衛隊の隊員さん達です。しかし自衛隊の皆さんが、国民から正当な評価を受けている様には、私には到底思えないのです。ミサイルや装備の内容については、ズブの素人でさっぱりわからないので何とも言えないのですが、私としては今回の文書で、ミサイルや弾薬よりも先に自衛隊の隊員さんの処遇の改善、さらに言うと社会的地位の向上まで踏み込んで欲しかったというのが本音なのです。
自衛官の身分は特別国家公務員となっていて、お給料は。高卒、大卒いずれも地方公務員より若干上回る程度の金額なのだそうです。自衛隊広報に掲載されている自衛隊員の年収は次の通りです。20代前半、全国平均258万円:自衛官平均310万円。30代後半、全国平均433万円:自衛隊平均432万円。50歳以上、全国平均504万円:自衛隊平均496万円。ざっと目を通してみると、階級ごとに差はあるのでしょうがそれなりの給料の様に見えます。しかし考えてみると、自衛官は一般企業より働ける期間が短くて、53歳から55歳が定年です。そして何より、彼らは有事の際には命を失うリスクを抱えて戦地に行かなければならないのです。独身の一般隊員(陸士)は駐屯地に住まなければならず、大部屋暮らしでプライバシーもあまりありません。災害時には被災地に派遣されて、普通の人達では到底出来ない作業まで行ってくれます。平時の訓練でも、常に緊張感を持って行動していて、「ちょっと休憩。喫茶店でお茶でも」なんて軟弱サラリーマンみたいな事は、口が裂けても言えません。彼等は、そこら辺のチャラいお兄ちゃん達が、仕事終わりに彼女と待ち合わせて、こ洒落たレストランで、「カベルネソーヴィニオン」なんて密教の呪文のようなワインなんぞを飲んでいちゃついている時でも、いつ飛び込んでくるかわからない緊急出動命令に備えながら、緊張感を持って暮らしているのです。意識高い系のお姉ちゃん達が、ダイエットでサラダだけの朝食をとって、出勤の途中にスタバで「ジョイフル・メロディーティー・ラテ」なんて舌を噛みそうな名前の面妖な飲み物を飲んでいる時に、女性自衛官の皆さんは、1食概ね250円の朝食を残さず食べて、1日の厳しい勤務に備えているのです。只でさえ陸自、海自、空自、3軍ともに定員割れの状況が続いているそうです。せめて2等陸士は別にして、3年目以降の陸士長からは、市役所で1番奥の窓を背にした席に座っている、大半の仕事は偉そうにする事とハンコを押すだけというおじさんくらいの給料は出して欲しいものです。
自衛官の地位、ステータスの向上は、故安倍元総理の悲願でした。我々国民の為に泥まみれになりながら災害派遣で汗をかいて、いざという時の為に日々厳しい訓練をしてくれている自衛隊員が、自分の任務に誇りを持つ事が出来て、その事を世間が認めてくれる事を安倍さんは強く望んでおられました。そしてその為に、憲法に自衛隊について明記して、国家としてその立場をきちんと認めた組織である事を示して行こうとしておられました。残念ながらその志は、いわゆるリベラルと称する政党や、某”さんらいず新聞”や某”えぶりでい”新聞など左寄りのマスコミからの猛反発を受けて、そして憲法改正という高い壁に阻まれて、生前は果たすことは出来ませんでした。憲法改正は、憲法審査会のサボリ議員たちが、「改正発議は与野党全員の合意の下で」なんていう出来もしない事を語っていて、当分改訂出来そうにありません。であるならば、せめて国家安全保障戦略の冒頭で、「我が国の国防を第一線で担っているのは自衛隊であり、その重要性は計り知れない」くらいの文言をぶち込んで欲しかったですよね。
私は、日々私達の為に汗をかいてくれている自衛官の人達に対して、ひとかたならぬ敬意を抱いています。自衛隊の隊員さんがいてくれるお陰で、安心して毎日を過ごす事が出来ていると、日々感謝をしています。なので我が国が、彼・彼女達が日頃行っているあらゆる努力に対して、物心両面で報いて欲しいと心の底から思っているのです。この点を最優先に考えてくれるのであれば、防衛特別税という目的税での増税も仕方がないと思っているのです。今回の3文書改訂について、天国の安倍さんは果たしてどう思っておられるのでしょうか。「岸田さん、よくやってくれた」と喜んでおられるのでしょうか。それとも、草葉の陰で、「キッシー、やっぱり詰めが甘いねえ。まだまだ修行が足りないよ」と厳しめの評価をしていらっしゃるのでしょうか。私は、優しい安倍さんのことですから内心若干不満はあったとしても、「岸田さん、ご苦労様でした。よく頑張ってくれましたね。とりあえずはこれで上出来ですよ」と、その労をねぎらってくださっているような気がします。「自衛隊の本当の姿など何も知らないくせに、偉そうなことを言うな」とおっしゃる向きもあるかと存じます。何しろ、私の自衛隊に関する大雑把な知識は、作家の浅田次郎さんと戦場カメラマンの不肖宮島茂樹さんからなのです。浅田次郎さんは若かりし時、一時期歩兵として自衛隊に入隊していたそうです。その時のご経験については、数々の随筆や「歩兵の本領」という短編集などで発表されています。卓越したストーリーテラーである浅田さんなのでずいぶん話を盛っている事と察しますが、これら作品の中で語られている本質は事実であろうと思います。不肖宮島さんは、カメラマンとして数々の自衛隊との同行取材のルポを、「ああ、堂々の自衛隊」などの多数の書籍で発表しています。興味がある方は是非一読してみてください。憲法9条と安全保障との間で生まれた忌み子のような自衛隊は、世間からその存在を正当に認められることなく、矛盾や苦悩、葛藤を一手に引き受けて来た集団の様に感じてしまいます。令和4年の1年を振り返りながら、新しい年を迎えるにあたって、暮れも正月もなく任務に励んでくださっている自衛隊員さんに思いを馳せながら、私は少しだけ背中がしゃんとしてしまったのでした。
Stand By Me:護られている私達が守ってくれている人達に感謝を込めて・・・。
Stand By MeはBen E Kingが1961年に発表した曲で、American pop musicのスタンダードナンバーです。この曲は、数えきれないくらいのアーティストがカバーしていて、Jhon Lenonのカバーは特に有名ですよね。最近ではキリン・フリーのCMソングとしてTVから流れています。オリジナルの曲は、1986年に公開されたロブ・ライナー監督の映画“Stand By Me”の主題歌として採用されていて、ご覧になった人も多い事と思います。仲良し少年4人組のひと夏の冒険を描いた作品で、素晴らしい映画でした。最後のエンドロールでこの曲が流れて来た時、何故だか無性に胸が熱くなってしまったという思い出があります。「真っ暗闇の中でも君が一緒にいれば怖くないんだ。世界がブッ壊れても君がそばにいれば泣いたりしない。だから一緒にいて。君にそばにいてほしいんだ」こんな詩で表現されたこの曲が、大切な友達の事を思う気持ちを鮮やかに表している様で、鼻の奥がツンとしてしまったのでした。そして「そばにいて」、人前ではなかなかに恥ずかしくて言えないこんなセリフを、何度も何度も連呼しているこの曲は、人知れず私達の為に、尋常でない位の努力や苦労をしてくださっている自衛隊の皆さんにぴったりだと私は感じているのです。
このような駄文を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
皆様にとって明日が今日より良い日となりますように。そして2023年が、皆さんにとって幸多き年となりますように。