旅の終わりに -All Around The World-
FIFA World Cup Qatar2022が、アルゼンチンの勝利で幕を閉じましたね 。黄金に輝く、へんてこりんな形をした、しかし世界で最も価値があるトロフィーを手にする事が出来た選手の皆さん、おめでとうございます。そして出場した全ての国の選手の皆さん、お疲れさまでした。皆さんにはまたすぐに各国リーグでの厳しい戦いが待っています。ゆっくり休息をとって次なる戦いに備えてください。今回のWorld Cupは、様々な論議を呼んだ大会でしたよね。初めての中東開催である為、暑さに対する対策で、通常は欧州や南米のリーグが終了した6月に開催されていた大会が、今回は12月開催となりました。人権侵害の問題も言われていましたよね。スタジアム建設の為に途上国から集められた移民労働者の過酷な労働条件や、イスラム教の戒律に基づくLGBTや女性差別問題などがしきりに報じられていました。金の力で無理やり持ってきたWorld Cupだなんて、身も蓋もない事も言われていましたよね。人権侵害の件は、後々偉い人達に語ってもらうとして、12月の開催については、なかなか良かったのではないでしょうか?従来の6月開催では、ドイツやロシアなど比較的高緯度の国で行われた大会でも、試合の後半は暑さでヘロヘロになっている選手が結構いて、足がつったりシュートをふかしたりするシーンをよく目にしたものでした。今回の大会では、フィールドはエアコンが効いていて、試合終盤まで選手たちのパフォーマンスはあまり落ちることがなかった様に感じました。選手達からも、好意的な評価であった様です。
我が日本代表SAMURAIブルーは、大方の予想を覆して、見事に決勝トーナメントに進出してくれました。皆様ご存知の通り、予選グループで圧倒的な力差があると言われていたドイツとスペインを見事に撃破して、予選をなんと1位で突破してくれました。日本中がこの壮挙に快哉を叫んで、一気にWorld Cupが盛り上がりましたよね。そして、決勝トーナメントのクロアチア戦は本当に残念でしたよね。しかし前回大会準優勝の強豪に対して、同点で120分を戦い終えてPK戦での決着は、選手は胸を張ってもいいと思います。Abemaで解説をしていた本田圭祐さんは、「PK戦での勝敗はどの様な結果になっても受け入れなければ仕方がない」とおっしゃっていました。又、「緊張して、PK戦は目を開けていられない」ともおっしゃっていましたよね。最初に蹴らなければならかった選手の心中は、どの様なものであったのでしょうか。失敗できない重圧とチームに対する責任が背中におんぶお化けの様に乗っかって、さぞかし大変だった事と思います。本当に凄まじい緊張感が、TVの画面越しからもビンビンに伝わってきました。そして私は不謹慎にも、「今ここに、遠藤保仁選手(ジュビロ磐田)がいてくれたらなあ」などと考えてしまいました。遠藤選手は、ガンバ大阪に所属していた時にコロコロPKの名手として知られていました。コロコロPKとは、PKを蹴る直前までキーパーと駆け引きをしながら、キーパーが我慢できなくなって左右どちらかに飛んでしまったのを見計らって、逆の方向にコロコロとやさしくボールを転がしてゴールを決めるという、人を小馬鹿にした様ななんとも味がある技術なのです。World Cup南アフリカ大会の決勝リーグ第1戦、パラグアイ戦もPK戦でした。そして、遠藤選手が最初のキッカーでした。日本中がコロコロキックを期待しましたが、流石にやりませんでしたね。(それでも遠藤選手は見事にゴールを決めてくれました)もし最初のキッカーがコロコロキックを決めてくれたら、相手のゴールキーパーは頭に血がのぼるでしょうね。そして決めた選手がにこやかに、そして飄々とスキップをしながら味方の所に戻って来たならば、次に蹴る選手の緊張はきっと和らぐと思うのです。しかしコロコロシュートをこの場面で実行するには、強靭な精神力が必要ですよね。失敗した時の修羅場は、恐ろしくて想像したくありません。セルジオの爺さんが、真っ赤になって怒り狂うのが目に浮かびます。ハリさんも「喝だあ!」と叫ぶでしょうね。メンタルの化け物でなければ、こんな芸当は出来ませんよね。
私が初めてWorld Cupサッカーと出会ったのは、1978年アルゼンチン大会でした。私の父親がサッカー好きで、深夜にNHKで放映されていたこの大会の決勝戦をTVで見ていたのでした。アナウンサーの人が「槍のケンペス」とやたらに叫んでいたことを記憶しています。そして、超満員のスタジアムと地鳴りのような歓声、大量の紙吹雪、見たこともないような光景が、そこでは繰り広げられていました。「世界では何て凄い事が行われているのだろう」と鼻たれ小僧だった私は、痛く感じ入ってしまったのでした。そうした訳で、私は子供の頃からサッカーには親しみをもっていました。しかし私にとってサッカーの立ち位置は、野球にはどうしても勝てないのです。なので、今大会で話題になっている、曰く“にわか”と呼ばれる人達と大差はありません。サッカーにはズルをしても審判にバレなければOKみたいな風潮があって、それが私には合点がいかないのです。少々のズルはマリーシアなどと言われていて、サッカー界では肯定的に捉えられている様です。例えば、相手のタックルが当たっていないのに大げさに転んで、おまけにどんな大怪我をしたんだという様な悲壮な顔をして、地面をのたうち回っている選手をしばしば目にします。日本対スペイン戦でも、日本の吉田キャプテンがスペインのズル男にこれをやられて、可哀そうにイエローカードを食らってしまいましたよね。そして、骨が折れたんじゃないかと見えるほど痛がっていた選手が直ぐにスタスタと走り出すのを目にすると、思わず「役者やのう」と薬痴寺先輩(©どおくまん先生:嗚呼‼花の応援団)の様に、ぎらりと眼鏡の奥から睨みつけてやりたい気持ちになってしまいます。もちろんこの様な行為はシュミレーションと呼ばれて、審判にバレたら厳罰に処せられて、最低イエロー、悪質なケースではレッドカードが出されることもあります。しかし、バレなければOKなのです。これは私の偏見なのですが、こういったズル男は、どうやら南米や南欧のいわゆるラテン系の国の選手が多い様に思います。奴らはいかにもズルそうな顔をしていますよね。「おまえらみんなタツカワじゃあないかよ!」などと私は怒っているのです。マラドーナ選手の伝説のゴールについては皆さんご存じの事と思います。1986年メキシコ大会の準決勝、イングランド戦でのあの有名なゴールシーンです。マラ様は「あれは神の手だ」などと嘯いていましたが、私は、「何が神の手じゃ!おのれの手じゃあねえか!只のハンドじゃねぇか!ズルすんなよ!」と思ってしまうのです。世間はあのゴールを伝説などと言っていますが、やられたイングランドの選手やサポーターはたまったもんじゃあないですよね。
そういった風潮がある為なのか、最近微妙な判定を確認する為に、VAR(ビデオ・アシスタント・レフリー)なる技術が導入されています。加えて今大会から、ボール内部にチップを装着して、ラインを超えたかどうかをセンサーで正確に判断する技術まで導入されました。これらの技術は、ゴールに関わる決定的な場面でのみ活用する事になっています。今大会では、このVAR技術が様々なドラマを生みました。スペイン戦での日本のゴールも海外では物議を醸していましたよね。特にこの結果で予選敗退が決定したドイツの人達は納得いかない様で、「こんなのはサッカーじゃない」なんて事を言っている人もいる様です。私は、「何を言ってやがる。ルールは守らんといかんもんなんや!大体お前ら、ルール遵守ばかり求めていて、綺麗事ばかり言ってやがるじゃあねえか!何がゲルマン魂じゃ!」などと思っています。私はドイツの人には厳しいのです。今回の大会では、あまりにも細かいところまでVARが描写出来るので、他にも様々な論争を呼んだ判定がありました。確かに、「微細なミリ単位のところまで判定しなくても」と思わない事もないのですが、選手たちはぎりぎりのところで勝負をしているので、客観的な判定は必要だとも考えてしまいます。
何はともあれ、日本代表の皆さんには感謝ですよね。選手、監督、コーチはもちろんの事、陽の当たらない所で頑張ってくれた皆さんにも御礼を申し上げます。ホペイロと呼ばれる用具担当の人、コックさん、フィジカルや医療担当の人達、広報や渉外を担当している人、経費精算や総務一般を担当されている人、あらゆる関係者の方々、ありがとうございました。そして、遠路遥々中東カタールまで応援に行ってくださっていたサポーターの皆さんにも、謹んで御礼を申し上げます。あなた方の素晴らしい立ち振舞い、スタジアムの掃除や礼儀正しい行動、規律がとれた応援や相手に対する敬意、そういった全ての振る舞いは、世界中の称賛を集めました。しかし、日本人全員がそんな人ばかりではないとシニカルに批判するひねくれ者もいすよね。確かに、日本人全てが彼等・彼女等の様な素敵な人達ではありません。クズみたいな人間も沢山います。路上飲みしてゴミを放置する“脳足りん”の奴等は、どこにでも出没しています。一桁の足し算も出来ない様なアホ面のヤカラが、タバコをポイ捨てしている光景も結構頻繁に目撃します。だからと言って、日本人サポーターに送られた世界からの称賛が色あせるものではありませんよね。私は、様々な価値観がある中で、「こういった振る舞いが、世界の模範となってくれたらいいなあ」と心から思いました。
2018年7月からスタートした森保ジャパンは、今大会を終えて一端区切りを迎えました。森保さんは「目標とするベスト16の壁を破る事、新しい景色は見られなかったが、新しい世界の入り口となった」と語っていました。しかし、日本サッカーの歴史の中で、素晴らしい道標を打ち立てたことは確かです。J-リーグが創設されるまで、日本サッカー界にとってWorld Cup出場は、夢の又夢でした。私は、1993年のアジア最終予選ドーハの悲劇の日から、日本サッカー界は、World Cupの頂に向けた長い旅をスタートしたと思っています。そしてその旅は、旅の仲間を様々に変えながら、そして歓喜と失望を糾える縄の如く繰り返しながら、様々な光景を歴史に刻んできました。ドーハの悲劇のあの日、カズさんがアル・アタリ競技場で見上げた空。1998年フランス大会、スタッド・トゥールーズで初めてWorld Cupのピッチに立って君が代を斉唱した時に、誇らしげな選手達の眼前に広がっていた光景。2002年日韓共催大会、長居スタジアムのピッチで初めて予選リーグ通過を決めるホイッスルが鳴り響いた時に、日本中が歓喜の渦で舞い上がっていた瞬間に私達が目撃した光景。2006年ドイツ大会、ウエストファーレンスタジアムでブラジルに完膚なきまでに叩きのめされた後で、中田ヒデさんが大の字に寝そべって見つめていた空。私達は4年に一度、素晴らしい物語の中で繰り広げられる様々な光景を見せて貰って来ましたよね。その道程を一緒に体感して来た私達は、本当に幸せですよね。今回世界から賛辞を集めたサポーター達も、一緒に歩いている旅の仲間です。スタジアムのゴミ集めは、1997年フランス大会の時からすでに行われていたと記憶しています。アメリカ・メキシコ・カナダ合同で開催される次回大会への旅はすでにスタートしています。選手達には、代表選考の為の熾烈な競争が待っています。選手の皆さんは大変ですよね。サッカー選手なら誰もがWorld Cupのピッチに立つ事が、子供の頃からの夢である筈ですから。皆、全てを捧げて鍛錬に励んで、各国のリーグで最高のパフォーマンスを見せてくれる事と思います。そうした掛け値なしのドラマを見ることが出来る私達は、本当に幸せですよね。今後、どの様な景色を私達は見る事になるのでしょうか?私は、日本中に一体感をもたらしてくれた我が日本代表に感謝しながら、次のステージに向かうSAMURAIブルーに対する期待で、わくわくしてしまっているのでした。
All Around The World:日本代表の選手達、そして素晴らしいサポーターの皆さんから世界中に伝えられた素晴しい価値観。世界中全ての人達が、人を思いやり、生きている事に感謝出来る、そんな世界になりますように・・・。
AII Around The Worldは、1997年に発売されたOasisの3枚目のアルバム、Be Here Nowの10曲目に収録されている曲です。私はこのアルバムが発売された当時、仕事や身の回りの雑事にちょっと疲れていて、精神的にきつい時期でした。そんな心が弱っている時期にこの曲と出会って、沢山の元気をもらいました。辛い事や訳の分からない苛立ちをやり過ごす事が出来る様に感じられて、私は、自宅への帰路の車中でこの曲をよく聞いていたものでした。Oasisのノエルとリアムのギャラガー兄弟は、彼らの地元のマンチェスター・シティというプレミアリーグのチームの熱烈なファンとして知られています。そして彼らは、今ではUAEの資本に買収されてビッグ・クラブになったこのチームがどうしょうもない弱小チームだった頃から応援していた、筋金入りのサポーターなのです。そういう背景を頭に入れてこの兄弟を見てみると、二人とも、外見はまさしく悪名高いフーリガン(乱暴者のサッカーファンくらいの意味です)そのもので、夜の裏町で会いたくはない人種に見えてしまいます。そんな悪相のならず者兄弟が、この様な素敵な曲を作る事が出来るとはとても信じられません。私が持っているプレミアリーグのスタジアムのイメージは、(あくまで偏見なのですが)ストレスを満タンにため込んだ労働者階級の親父やアンちゃん達が、日頃のストレスを発散しに集まってくる、フーリガンの社交場といった感じで、発煙筒の赤い光線と煙、サポーターの殴り合い、そしてむさ苦しい野郎どもが声をはりあげるチャント(応援歌のようなものです)といった危険な香りがするものなのです。そしてそんなイメージとこの兄弟が醸し出す雰囲気がぴったりなのです。しかしそんな彼らが歌うこの曲は、前向きな感情、明日への希望に満ち溢れています。それは恐らく彼らが育ってきた境遇(ギャラガー兄弟は、少年時代アル中の父親から深刻なDVを受けていたのです)に由来していて、そんな彼等だからこそ、この様な素晴らしい曲を歌うことが出来るのだと思っています。よろしければ、この曲の歌詞を眺めてみて下さい。「世界中の人達に、みんなの言葉は伝わったんだよ。人々にみんなが知っている事を伝えてくれ。そしたら素敵な日々が待っているんだよ」こんな素敵な歌詞が、我らが日本代表と、カタールに集まったサポーターの皆さんにぴったりだと思ったのです。
このような駄文を最後まで読んでくださってありがとうございます。
皆様にとって、明日が今日より良い日となりますように。