男たちの挽歌- 2-4-6-8 Motorway -
新型コロナウイルスに続いて、また新しいウイルスが登場してきました。人呼んで「サル痘」。天然痘ウイルスの親戚で、感染症法ではマラリアや狂犬病と同じく4類に分類されています。なんとも恐ろしげな奴ですが、死亡率はそれほど高くない様で、症状は、発熱、倦怠感、頭痛、リンパ節腫脹、そして特徴的な発疹(つまり"できもの"ですね)が全身に発症します。主に血液や体液に接触することで感染して、エアロゾル感染はよほど長時間飛沫に暴露されなければ感染しないと言われています。できものの写真を見ると、罹りたくない感染症であることは間違いないと思います。元々は南アフリカ原産のウイルスでしたが、最近、ヨーロッパやアメリカで流行していて、とうとう、WHOが7月23日に緊急事態のステートメントを発表しました。(7月28日には、米ニューヨーク州で非常事態宣言が出されています)
現在のアウトブレイクは、主に男性、かつ同性愛者が70%を占めている事が分かっていて、つまりそういった性的指向の人達の間で最初の流行が始まったことが示唆されています。なんだかエイズが世の中に出てきた初期の頃の事が思い出されますね。日本でも、最近2例の患者が立て続けに報告されて、いずれも海外から帰国した人でした。(つい先日、3例目の患者が報告されました)早速、厚労大臣や官房副長官が会見を開いて、注意喚起をしていましたが、何故か現状罹患している患者の大多数が男性・同性愛者ということは、内容には含まれていませんでした。マスコミの報道でも、患者背景については、ほんの付け足し程度しか報道されていません。そして、一様に最後に一言、「くれぐれも差別や偏見を助長する事がないようご注意をお願いします」という一文が付け加えられているのが、何だか奥歯にものが挟まったような言い方で、ちょっとイライラしてしまいます。私は、厚労省の担当部局でこの様な会話がされていたのではないかと、またまたよからぬ妄想をしてしまいました。
白鳥健康局危機管理官:「おい田口。例のサル痘の注意喚起文、なんだこりゃ?”現在男性同性愛者の間でこの疾患が流行しています。お心当たりがある方は十分に注意してください”だあ?」田口健康局係長:「WHOからもその様な報告が来ていますが・・・。」白鳥:「馬鹿野郎!こんなモンを入れ込んだら、おっかない活動家の奴らやマスコミのボケナスが、差別助長だなんて騒ぎ出すに決まってるだろうが!削除だ!削除。サクジョ!分かったな!」田口:「でも先輩、間違ったことは何一つ書いていませんよ。第一、きちんとリスクを周知して、国民の安全を守るのが私たちの仕事でしょう。」白鳥:「アホンダレ!何を青臭い事を言ってやがる。国民の健康や安全よりも、世間様がどう我々を見ているかの方が大事に決まっているだろうが!阿呆な奴らが、サル痘になろうがなるまいが俺たちゃ知ったこっちゃねえんだよ!俺たちに大事なのは世間体、セケンテイ。わかるか?」田口「はあい・・。」(こいつ、いつか”しばいたる”からな・・。)
私は今回、ヤバイところに足を踏み入れつつあるという事を自覚しています。多分私は、とても面倒臭い人間なのでしょう。もしかしたら私はレイシストなのかもしれません。社会には、LGBTの人達への差別や偏見はまだまだ存在していて、こういった人達への一定の配慮は必要だとは思います。しかし、そういった事と、必要で正確な情報を社会に提供する事は、分けて考える必要があると思うのです。WHOのステートメントでも、「複数のパートナーと性的関係を持つ男性の間で、集中的に感染者が発生している。これは、適切なグループに対して適切な戦略を講じれば、感染拡大を止めることが出来る事を意味する。」と、明確に述べられています。ポリコレが行き過ぎると、社会にとって必要な事より、差し障りのない安全運転の方が優先される様で、なんだかうんざりしてしまいます。実際、この病気についてネットで調べていると、怪しげな話がわんさかと出てきます。曰く、コロナウイルスのRSNAワクチンを打ったために、免疫が低下して、サル痘にかかりやすくなった。曰く、男性同性愛者の人たちの間で頻用されているゲイの人達専用のマッチングアプリ(本当にある様です)を介して開かれた乱行パーティーで、爆発的に世界にウイルスがばら撒かれた。といった塩梅で、ゴミのような陰謀論の山になっています。私は、やはりこういった事態に際しては、きちんとした情報を正確に伝達することが第一だと思うのです。この感染症は、男性、同性愛者に特有の病気ではなく、誰でも感染する可能性がある疾病である事。一部の、見境なく誰とでも性的関係を持っている人達の間で大流行している事。感染力はそれほど高くないので、きちんと対策(何より男性同性愛の人達が気をつける事)をとることで、パンデミックは防げる。こういった事を世間にきちんと周知させることが大切だと思うのです。
私は元来、性的マイノリティの人達に対しては、生理的に受け付けないという本質的な嫌悪感を持っていました。そういった感情は、それはおそらく本質的な部分と、また育ってきた生い立ちによるところも大きいと思います。一部不適当な表現や、性的マイノリティの人達が不快になる表現があるかもしれませんが、昔話ということでご容赦ください。私が子供の時は、世の中には「ホモ」とか「おかま」と呼ばれる人達がいるという程度の認識でした。私が高校生の時には、「薔薇族」や「さぶ」という雑誌があって、それは、私たち悪ガキの間では、決して開いてはならない禁断の雑誌という事になっていました。ある日、悪ガキの一人がその禁書を入手して、みんなで恐る恐る見た時の事が思い出されます。その時は、見てはいけないものを見てしまった様に思えて、何だかものすごく良くない事をしているように全員が感じたものでした。実際に、柔道部で角刈りのサブロー君という友達は、「さぶ」という雑誌と関連づけられる事を避けるため、速攻で角刈りの髪型をツルツルに剃り上げてきたものでした。(さぶは、角刈りのふんどし姿の精悍な男が登場してくることがトレードマークでした)彼はその代わり、速攻で”坊さん”というあだ名をつけられてしまったのですが・・・。こんな嘘のような話がおきる程、当時のウブな高校生にとって、ホモセクシャルの世界はショッキングだったのです。こうした経験があるので、私は、どうしても男性同性愛者に対して、嫌悪感やある種の偏見を持っていたのです。その後の人生では、私はLGBTの人達とは接する事なく毎日を送ってきました。TVでは「おすぎとピーコ」さんやマツコデラックスさんといった人達が活躍されていましたが、あくまで彼らは特別な人達という認識でした。そうした日々を送っていたので、私にはLGBTの人達がそれぞれ感じてきた、生きづらさやどうしようもない思い、そしてカミングアウトする事で一体どうなるのかという恐怖、そういった事柄を何一つ考える事なく暮らしてきました。こんな私がある意味こうした人達のことを考える契機になった事件があります。
2016年にある訴訟がありました。ある大学のアウティング(暴露)事件と知られている訴訟です。ゲイの大学生が友達にカミングアウトした上で、その友人のことを愛している事と、そして付き合ってほしいという事を告白したそうです。しかしその友人はその告白を断って、様々な経緯はあった様ですがそうした事実を友人同士のグループLINEで流してしまったそうです。その事実を知った件の大学生は精神的におかしくなってしまって、遂には自死をしてしまったという、なんともやりきれない事件です。私はこの事件の事を新聞で読んで、気が滅入ってしまいました。件の大学生は、どういう思いで毎日を過ごしていたのだろうか。どういった思いで、友人に告白したのだろうか。断られた上に、自分の性志向までLINEで暴露された時の思いはどうだったのだろう。そして、自分がもし、告白された友人だったらどうしたのだろう。そんなことを考えてしまいました。私は、様々な立場の人たちが、お互いの立場を認めて仲良く暮らしていける寛容な社会を望んでいると思い込んでいました。しかし、それはあくまでも表面上の事で、私はこの事件を知って、自分が今まであまり深くものを考えていなかったという事に改めて気が付いてしまいました。そして、もし自分の周囲でこの様な事が起きたら、自分はどうするのだろうか?ということについて考え込んでしまいました。
近年、性的マイノリティの人達に対する理解は、飛躍的に向上しています。ヨーロッパでは、2001年にオランダで、同性婚が世界で初めて合法化され、その後18カ国がオランダに続きました。アメリカでも、既にいくつかの州で同性婚は合法化されていて、本年、連邦議会下院でも同性婚保護法案が可決されています。日本では、同性婚は認められていませんが、自治体レベルでのパートナーシップ制度が導入されて、同性カップルの存在を認めて、その証明が出来る様になっています。現在パートナーシップ制度は200を超える自治体で施行されています。国会でも、超党派の議員連盟によって、LGBT理解促進法案の合意がなされて、法整備の機運が高まっています。私は、同性婚については賛成です。同性カップルの人達が、自分たちの存在を認めてもらうだけでなく、夫婦なら当然あるべき権利を自分達にも与えて欲しいと思う事は、当然だと思うのです。しかし私は薄っぺらい人間なので、同僚や友達に同性愛者がいたとしたら、差別はしないと思いますが、区別はしてしまうと思います。性的マイノリティの人達が望むと望まざるに関係なく、不自然な気遣いをしてしまうと思うのです。もしかしたら、いらんお世話と言われる様な事をしてしまうかもしれません。そして、そんな事をすれば、その人を傷付けてしまうのではないか?なんて事も考えてしまうかも知れません。こういった事を思うにつけて、世間で言われるところの多様性だとか、ダイバーシティという事は、一体何なのだろうと思ってしまいます。
現在検討されている「LGBT理解促進法案」ですが、残念ながら自民党の保守派の議員から「差別は許されない」という文言が、行き過ぎた差別禁止運動につながる恐れがあるという意見が出ていて、党としての合意は得られず、法案は宙に浮いてしまっています。私は、このニュースを知って、「また右側の奴らが了見の狭い事を言いやがって、ちっちゃい奴らだよ!」と思ったものです。しかし、ご自身がゲイであることをカミングアウトしている前参議院議員の松浦大悟さんが、この法案については、拙速に結論を急ぐべきではないと語っている事を知って、考えを改めました。松浦さん曰く、法案に差別は許されないと明記してしまうと、LGBTの人達は、国家から差別民であることが正式に認定される事になってしまうと考えているそうです。こうした発言を聞くに付けて、自分が、いかに上から目線でこの人達を見ていたのかということに気付かされて、自分が嫌になってしまいます。そして、こういった複雑な事柄については、表面上の事だけ捉えてしまうことの危うさについて、改めて思い至りました。今回このブログを書いていて、日頃、多様性やダイバーシティなんぞ偉そうに言っているけれど、自分が何もわかっていない事に気が付きました。「暇人があれこれ考えてしまうと、ろくな事にならないなあ」などと思うのですが、それでも「思考停止でいるよりも、あれこれと考えている方が生きている意味があるなあ」などとぼんやりと思いを巡らせているところです。
2-4-6-8 Motorway:色々な雑念はとりあえずどこかに置いておいて、とにかく走り続けよう。それは、自由な社会を生きていくために必要な事なのだから・・・。
2-4-6-8 Motorwayは、1977年に発売されたTom Robinson Bandの1stアルバム、Power In The Darknessの1曲目に収録されている曲です。このアルバムは、高校生の時に愛読していたミュージックライフという雑誌で大絶賛されていて、なけなしの小遣いを叩いて買いに行ったという思い出の1枚です。自分がゲイである事をカミングアウトしたパンクロッカーのアルバムという事で、私はとても心配だったのですが、レコードに針を落とした瞬間にこの曲が流れてきて、とても幸せな気持ちになった事を憶えています。3コードの本当にシンプルな曲なのですが、理由なんて何もないのですが、何だか心の底から前向きに生きていける力や明日への希望を感じることができる、素晴らしい名曲だと私は感じてしまったのです。この曲は、今でも私のお気に入りの1曲で、元気が出ない時、やる気が出ない時、辛いことがあった時、そんな時によくこの曲を聴いたものです。現役の時に、得意先での商談がうまく行かず落ち込んで帰る車の中で、この曲を聴きながら空元気を振り絞って、夜道を車で走った日々の事が思い出されます。Tom Robinsonという人は、13歳の時に自分が男の子に恋をしていることに気づいてしまったそうです。当時のイギリスでは、同性愛は違法行為とされていて、絶望したTom少年は自殺未遂をしてしまったそうです。しかしながら、Rockと出会ったTom少年は、立ち直って、この様な素晴らしい曲を作ってくれました。ちなみに、今回のタイトル「男たちの挽歌」は、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、香港ノワール(悪漢映画)の名作から拝借させていただきました。ジョン・ウー監督、チョウ・ユンファ主演のとても格好いい映画で、義兄弟の為にあえて死地に飛び込んでいくという、男の熱い友情を描いた作品です。今回の内容とは全く関連はないのですが、私には、男の友情も、同性を愛してしまうという感情も、人間の心の奥に存在する愛情という複雑で混沌とした何か(それは限りなく純粋なものかも知れず、反してドロドロとした得体の知れないのもかも知れません)が、異なる形で現れてきたものの様に感じられるのです。
このような駄文を最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
皆様にとって明日が今日より良い日となりますように。
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