覆水盆に返らず-Don't Look Back in Anger-
本年度のアカデミー賞で、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が国際長編映画賞を受賞しましたね。アカデミー賞は、アメリカ映画界で最高の栄誉ある賞であり、数ある映画賞の中でも特別な存在である事はご存知の通りです。この作品をまだ見ておらず、おまけに村上春樹さんの原作も読んでいない私が言うのもなんですが、このような栄誉ある賞を邦画が受賞したことに、祝意を表したいと思いますし、素直に喜びたいと思います。ところで、今回のアカデミー賞では、とんでもないハプニングが起きてしまいましたね。ウイル・スミスが、彼の妻ジェイダさんの髪型をおちょくった司会者のクリス・ロックを、セレモニーの真っ最中、公衆の面前で引っ叩いてしまった例のあの事件です。たとえこんな事があったとしても、ドライブ・マイ・カーの栄誉は燦然と輝いていて決して色褪せるものではありませんが、それにしてもなんだか微妙な感じになってしまって、ちょっと残念な気持ちです。
私が最初にこのシーンを見た時、ウィルのビンタがあまりにも綺麗に決まったことに目を奪われてしまいました。叩かれたクリス・ロックも見事なまでにのけぞって、まるで映画の1シーンの様な感じでした。そして、流石に数々のアクションシーンをこなしてきた映画スターだなどと、不謹慎にも感心してしまいました。続いて頭に浮かんだのが、全米を覆っているポリティカル・コレクトネスの嵐のなかで、「これは大変なことになるぞ。」という事でした。案の定、ウイルを擁護する声も若干はありますが、概ね皆様批判的で、ウィルは暴力に訴えるべきではなかったという意見が大半を占めているように見受けられます。たとえクリス・ロックの発言で、脱毛症に悩んでいたジェイダさんが深く傷ついてしまったことが許せなくても、暴力に訴えるのは絶対にダメだという論調でしたね。
興味深いのは日本との対比です。日本では、暴力に訴えたのは良くないが、そうしてしまったウイルの心情も良くわかるといった、ウイルの行動に理解を示す意見が多い様です。ウィルの行動は愚かではあるが、侮辱されて傷ついた妻のために、敢えてあんな事をしでかしたというのはは理解できるという事ですね。自分でもそうするかもしれないと公言している芸能人もいましたね。しかし、おそらく日本人ならセレモニー会場では決してその様な事はしないだろうと私は思います。一方で、ウィルの行動を理解しないアメリカ人の俳優達は、往々にして同じような行動をとってしまうのではないかとも私は感じています。何名か実際にやってしまいそうな人の顔が頭に浮かびますね。暴力まではいかないにしても、これまた批判の的になっているF用語を使っての罵倒ぐらいはしてしまいそうな顔ぶれも、何名か思い浮かびますね。
話は外れますが、F用語を使って不道徳な発言をしたことが批判されている点については、私はちょっと違和感を持っています。これまでのアカデミー賞受賞作では、散々F用語が使われている作品が幾つもあります。1987年のアカデミー賞において数々のオスカーを受賞した「プラトーン」という作品は多くの方がご覧になったと思います。ベトナム戦争中の米軍小隊での葛藤や苦悩を描いた作品ですが、ご覧になった方はおわかりの通り、兵隊さん達の言葉使いはF語だらけです。例えば、「おいマニー、おしっこ男。除隊したら何をやるんだ?肛門。」「ヘーイ男。雌犬の息子、ジュニアよ。俺はうんこなこの国をおさらばしたら、狂った性交の故郷に帰るんだ。近親相姦野郎。」(下品な表現で申し訳ございません)と言った塩梅で、アメリカ人は本当にこんな喋り方をしているんだろうか?とびっくりした記憶があります。しかし、この映画の推薦文で、ベトナム戦争での従軍記者経験がある作家の開高健さんが、「ジャングルの雰囲気や兵士たちの言葉使いが忠実に表現されている。」という文章を寄せていたので、概ね間違いではないのでしょう。「作品は作品なのだからセレモニーでは皆様お行儀よくしていなきゃダメですよ。」といった建前や偽善みたいなものが垣間見えて、なんだかげんなりしてしまいますね。暴力沙汰は絶対にダメですが、例えば野生的で個性派な役者さんがオスカーを受賞したとして、そのスピーチに少しくらいF語が入ったとしても許容されたらいいのになあと思ってしまうのです。もちろん、性交やおしっこくらいならですよ。何やらの息子や近親相姦野郎は絶対にダメでしょう。肛門だって絶対にダメですよね。
今回、つい手が出てしまったウイル・スミスですが、払った代償は大きく、先日、アカデミーの会員を辞任するというニュースが報じられました。また現在アカデミー委員会がこの件について裁定中で、その結果次第では折角手にすることができた、主演男優賞のオスカーも手放さなければならなくなる可能性があると伝えられています。加えて、クリス・ロックがこの件について訴訟を起こせば、有罪確実で、賠償金はとんでもない額になるとも言われています。ウイル・スミスくらいになると、こんな事がおきても、いくらでもやり直しが出来ると思いますが、我々一般人はそうはいきませんよね。一時の過ちで人生を棒に振ることになります。覆水盆に返らずというやつですね。
怒りの感情は、人間誰しも例外なく持っているもので、この厄介な感情が、様々なハラスメントやDV、煽り運転や暴力沙汰の一因となっています。それがわかっているので、私たちは怒りの感情と上手に付き合いながら、それをなんとかコントロール出来ないかということを考える必要があります。そして最近では、怒りの感情をコントロールする為に、アンガー・マネジメントなる対処法が注目されています。一般的には、”6秒ルール”がよく知られていますね。これは、怒りに対して反射的に反応しないために、6秒ゆっくり数えて落ち着くと共に、自分を客観的に見てみるという方法の様です。私はストレスが多い仕事をしていたため、アンガー・マネジメントなる言葉が広まるずいぶん前から、怒りをコントロールする事の重要性はよくわかっていました。そして、酒場の話題の格好のネタとして、仲間内で面白おかしく語り合っていたものでした。ある先輩は、上司から厳しく叱責された時や、顧客から理不尽な怒りをぶつけられた時、甚だ不謹慎ですが、当人が夜の営みをしている時どんな顔をしているんだろうと考えていたそうです。本当に品がないですね、反省します。同僚は、「こいつは死んだら確実に地獄行きだ!」と思って、地獄で閻魔様や地獄の獄卒に当人が痛めつけられる姿を想像していたそうです。ずいぶんサディスティックでネガティブですね。私自身も、怒りを覚える場面では、相手に対して、「この人はきっと持病の痔が悪化して、ひどく痛むんだろうなあ。」などと思う様にしていました。本当にどうしょうもないヒトたちですよね。以上は、駄目サラリーマンの、いわゆる酒席での仕事の愚痴というやつですが、こんなどうしょうもない与太話でも、私自身はずいぶん救われたものでした。
私は、世界中の人々が、怒りの感情をコントロールすることができれば、他愛も無いことでおきてしまう喧嘩や刃傷沙汰の多くは、無くなっていくと信じています。きっとタイガースが負けた夜の甲子園球場ライトスタンドでの喧嘩も無くなることでしょう。また、私が何より憎んでいる、家庭内暴力や虐待といった悲惨な事件も防げるのではないかという期待も持っています。私は大甘なヒトなので、人間というものを信じたいのです。
Don't Look Back in Anger :怒りに任せた行動からは不幸しか生み出されない。心の目で自分を客観的に見ることができれば、きっとより良い場所を見つけることができるに違いない、そんなことを考えて・・・。
Don't Look Back in Angerは、1995年に発売されたOasisの2枚目のアルバム、(What's the Story)Morning Gloryの4曲目にフューチャーされた曲です。当時私は、担当先が遠隔地であった為、遠距離運転の際によくFMを聴いていました。そしてFMから流れるこの曲を聴いた時、一発で心を奪われてしまい、そのままCDショップに行ってこのアルバムを購入したことを憶えています。この曲はOasisのファンにとって特別な意味を持つ1曲で、2017年に英国のマンチェスターのコンサート会場で発生したテロ事件(22名の死者が出てしまった大惨事でした)のアンセム(礼拝で歌われる合唱)として知られています。本当にいい歌で、歌詞の内容も深みを感じさせるものとなっています。作詞をしたノエル・ギャラガーはこの歌詞には意味なんてないんだなんて悪ぶっています。しかし、ノエルとリアムのギャラガー兄弟は、少年時代にアルコール依存症の父親から深刻なDVを受けていて、荒んだ生活を送っていたという背景を持っていて、そんな彼らなので、彼らが作った詩からは、幸せな生活への渇望や明日への希望を感じることができます。今改めてライナーノーツを眺めてみると、現在ウクライナで酷い目にあっている人々、そして国外に逃げなければならなくなった人々の悲しい心情と重なる部分があって、なんだか胸が一杯になってしまいました。
このような駄文を最後まで読んでくださってありがとうございます。
皆様にとって明日が今日より良い日となりますように。
Hi, yup this paragraph is truly pleasant and I have learned lot of things
from it about blogging. thanks.
Thanks a lot.
I can keep a motivation by your warm comment.
I would appreciate your support.